今回はライプツィヒを拠点に、新しい音楽の方向性を探りながら活動する4人組バンド「ヴェルテン」(Welten)についてご紹介します。「ヴェルテン」(ドイツ語で世界の意味)が結成されたのは約4年前。ライプツィヒ音楽大学で当時一緒に勉強していた、ピアノ担当のヴァレ、フルート担当のルーカス、サックス担当のラウレンツの3人と、そこにドラム担当のヨナスが加わってスタートしました。
彼らの音楽を一つのジャンルにカテゴライズするのはとても難しいのですが、ヴァレによると、影響を受けているのはジャズ、映画音楽、クラシック音楽、それから世界中の音楽、特にブラジル音楽やサルサとのこと。「自分たちのバンドの名前『ヴェルテン』がそれをよく表していると思う」と彼は語ります。彼らのコンサートを私も何度か訪れていますが、音楽に馴染みの無かった私の身体にもすっと染み込んでくるような、不思議な音楽を彼らは作っています。歌詞はなく、音の波に飲まれていくような大胆で実験的な音楽が、ヴェルテンの音楽の特徴の一つでしょう。
左からラウレンツ、ルーカス、ヴァレ、ヨナス
また彼らは、ただ音楽を共に作るだけではなく、人間として、友だちとして、バンド内でのコミュニケーションも大切にしています。一人のボスがいるのではなく、みんなで決めていくことが大切なのだとか。また、ヴィジュアルアーティストやダンサーを招くなど、ジャンルを横断するような活動も特徴的です。ちなみに今までの活動でのハイライトは、アイスランドへのコンサート、そしてレコーディングの旅(!)とのことでした。さらに、ライプツィヒは若いミュージシャンにとってどのような街なのかを尋ねてみると、「ほかの若い実験的な活動をする人も多くいるので、ミュージシャン同士でのコミュニケーションが取れるし、それによってインスピレーションも湧く」と答えてくれました。
実際、ライプツィヒには多くの音楽フェスティバルが存在します。1976年から開催されているドイツで最も歴史あるジャズフェスティバルの一つ「ライプツィガー・ジャズターゲ」や、実験音楽を多く集めた「シナプスフェスティバル」、そしてゲヴァントハウスをはじめとしたクラシック音楽のシーンも充実しています。しかし、クラシック音楽・音楽家への支援が充実している一方で、金銭面で比べると、自由で実験的なミュージシャンに対する支援は十分とはいえないようです。特にコロナ禍での活動は大変だったそうで、試行錯誤しながらここまでやってこられたといいます。
音楽に合わせて映像を変化させるVJとのコラボレーション
そんなヴェルテンの新しいアルバムが、今年の夏に発表されます。これまでのアルバムはSpotifyなどの音楽サービスでも聴くことができるので、気になる方はぜひチェックしてみてください。ライプツィヒのさらなるオルタナティブな音楽シーンの発展が、これからも見逃せません!
ヴェルテン:www.welten-band.com
東京都出身。日本で陶芸を勉強した後、2019年からライプツィヒ在住。現在はライプツィヒの大学で博物館学を勉強しながら、ウェブマガジン「ヴァルナブルな人たち」を運営している。
https://vvulnerablepeoplee.wixsite.com/website/magazine