外観はしゃれた邸宅、常設展示品には美術教科書でも見た有名な西洋画が多く並んでいます。ワシリー・カンディンスキー、フランツ・マルク、アウグスト・マッケなど、美術に詳しくなくても、見れば記憶が刺激される名画を描いた画家の作品群です。
しゃれた邸宅は、イエローの外観が美しい
この邸宅の所有者であったフランツ・フォン・レンバッハ侯爵は有名な肖像画家で大富豪でもありました。未亡人となった彼の夫人からミュンヘン市に売却されて以来、ここは市の美術収集活動の拠点となりました。そして、市がレンバッハ侯爵のコレクションと併せて1929年に一般公開したことがこの美術館の始まりです。2013年には大規模な増築工事が終了し、モダンで明るいホワイエやガラス張りのカフェが併設されていますが、「レンバッハ侯爵のアトリエ」や建物のそこかしこ、そして庭園で、侯爵の美意識が反映された豪華な装飾の数々を見ることができます。
ホワイエには美しいガラスのオブジェが
この美術館には、20世紀初頭にミュンヘンを中心として活動した「青騎士」派の大規模なコレクションが所蔵されています。冒頭に挙げた画家達のほかには、女流画家のガブリエーレ・ミュンターなどの作品もあります。ミュンターはカンディンスキーの教え子で、彼のパートナーとしても知られています。二人はミュンヘンの南西70Kmに位置する風光明媚なムルナウに家を買い、そこの力強い自然や民衆芸術から多くのインスピレーションを得て作品を生み出しました。カンディンスキーが彼女と別れてロシアに帰国した後は、「青騎士」派の作品の多くについてミュンターの所有権が認められ手元に残されることとなりました。
現代では非常に有名な「青騎士」派の作品群ですが、発表当時は全く評価されず、展覧会での論調も厳しいものだったそうです。その後、ナチスの第三帝国時代には現代芸術は「退廃芸術」として攻撃対象となったため、ミュンターはムルナウの家の地下室に作品を隠し、庇護し続けたそうです。これにより第二次世界大戦の戦火から多くの絵画が逃れることができました。1957年、80歳の誕生日にミュンターは守り続けてきたコレクションを交流の深かったミュンヘン市に寄贈し、これらを得ることとなったレンバッハハウスは、一夜にして世界的に有名な美術館となったのです。
画家の才能、所有者による作品の庇護、展示される場、そして美術館として一般公開するにあたっての運営過程など。作品が市民の目に触れる状態になるまでには、多くの幸運が必要になるようです。それらを経て現在に受け継がれている美術品に直接触れることができるのも、大いなる幸運なのかもしれません。
「青騎士」派にゆかりの深い美術館、ムルナウの「ミュンターハウス (Münter Haus)」とコッヘル湖畔の「フランツ・マルク美術館(Franz Marc Museum)」にも行ってみたくなりました。
日独の自動車部品会社での営業・マーケティング部門勤務を経て、現在はフリーランスで 通訳・市場調査を行う。サイエンスマーケティング修士。夫と猫3匹と暮らし、ヨガを楽しむ。 2002年からミュンヘン近郊の小さな町ヴェルトに在住。