今年のドイツの夏は、全国的に肌寒い日が多く、雨も続きました。昔はカラッと乾燥しているのがドイツの気候だったのが、今年はまるで日本の梅雨が続いているような気候でした。
そんな冷夏だった今年の夏を取り戻すべく、プフォルツハイムでグレートバリアリーフを楽しめる GREAT BARRIER REEF 360° Panoramaを訪れました。このプロジェクトをプロデュースする芸術家のYadegar Asisiは、1993年にパノラマで空間を作り出す手法を編み出し、今ではベルリンやドレスデンなどでテーマを変えて展示を行っています。
深く引き込まれるAsisiの世界
今回訪れたプフォルツハイムは、シュトゥットガルトから車で45分ほどのところにあり、南ドイツで唯一Yadegar Asisiの作品が体験できる場所。世界一大きなサンゴ礁地帯であるオーストラリアのグレートバリアリーフをテーマにしていて、遠い異国へ旅したい気持ちを埋めるべく、はたまた雨続きで室内アクティビティーが人気であるためか、多くの人が訪れていました。
この展示会場であるGasometer Pforzheimは1912年に建設されたガスタンクで、ほぼ100年間、市内のガス供給の均等化タンクとして機能し、現在では全国で保存されている最も古いガスタンクの一つです。この高さ42メートル、幅40メートルのスチールシリンダーを使い、Asisiの最大パノラマ芸術作品がプフォルツハイムで実現されました。
塔の中ほどには、たくさんの照明機器がある
中に入ると、まずは資料展示室を回り、作品にまつわるお話や作成段階を知ることができます。そして別室となっている中心部分へ足を運ぶと、そこには映像のみならず、音響を巧みに使ったAsisiの世界が広がります。中央にある塔を上りきると、あたかも自分が海の中にいるような錯覚に。じっと耳を澄ますと、クジラやエビが発する音も聞こえ、朝と夜とで海の表情が変わります。Asisiは写真と描写をうまく利用し、現実より現実らしい、彼の海を作り出しました。私は日本でスキューバダイビングをしていたので、海の中が大好き。タンクもボンベもいらないこんな海中散歩はなかなか贅沢です。それと同時に、こんなすてきな海をいつか潜れたらなと願うのでした。
Asisiの最新作品は、ライプツィッヒで展示されているCAROLAS GARTEN。こちらはライプツィッヒに住んでいたカローラさんという人のお庭をテーマにされています。この作品が私にとってAsisi作品との初めての出会いとなったのですが、こちらも朝と夜との変化を楽しめる作品で、映像の発色、また音響も洗練されている感じがしました。映像と音響による、エネルギーと安らぎ、そして生と死を感じさせる地球上の楽園とも思わせる空間を創り上げています。
ガスタンクの円柱形を最大限に活用したスクリーン
Asisi作品の見られるガスタンクの近くにお越しの際は、ぜひ彼のすてきな世界を体験してみてください。
Gasometer Pforzheim:www.gasometer-pforzheim.de
大阪生まれ、東京育ち。在シュトゥットガルト14年。Merz Akademie大学視覚コミュニケーション科卒。語学力を武器に、日本企業のリロケーションをサポートしながら、メディアデザイナーとしても幅広く活躍している。趣味はギターと読書。