シュトゥットガルトの北西にあるプフォルツハイムという町に行き、元ガス貯蔵庫の内壁を使った一風変わったパノラマ写真の展示を見てきました。うわさには聞いていましたが、前代未聞の試みというアート作品だそうで、テーマは「古代ローマ」。
ガス貯蔵庫は10階建て以上の高層建築物。遠くからでも見えるので、かなりの存在感がありました。早速、建物の中に入って受付を済ませたら、元ガス貯蔵庫の下部にある展示空間に入っていきます。
元ガス貯蔵庫の外観
最初の展示空間ではローマ帝国の歴史についての説明がありました。帝国は最盛期には地中海沿岸全域に加え、北はイングランド、南は北アフリカ、西はイベリア半島、東はメソポタミアまでの広大な領域を支配していました。しかし、領土の拡張に伴う権力争いが絶えず、複数の皇帝が並立するという事態に。312 年というのは、二人のローマ皇帝コンスタンティヌス1世とマクセンティウスが戦って、勝利したコンスタンティヌス1世が、分裂状態にあった西ローマ帝国を統一した年です。
この大決戦「ミルウィウス橋の戦い」を描いた絵を通り過ぎると、ローマを360度の見渡せる8枚の白黒写真から成るパノラマ写真がありました。撮影されたのはなんと1888年。コロッセオなど有名な遺跡がまだ完璧な円形を保ったままでした。そこには古代ローマ人の姿もありましたが、これはあとで写真に描かれたそうです。そして、この写真こそが巨大パノラマの写真のモチーフとなる元の絵なのです。
さらに廊下を通り抜けると、そこは円筒形のガス貯蔵庫の中心になります。視界が一気に広がり、高さ35m、一周100m以上の巨大な写真を目の当たりにし、まずその大きさにびっくりです。
円筒の空間の真ん中に6階立ての展望台がありました。まず展望台の一番上に登って、地平線を確認します。地平線まで神殿や木や山々、屋根付きのコロッセオも見えます。一段ずつ下の階に下りて行くと、さまざまな人物が見えてきて、そこにはコンスタンティヌス1世もいました。
3階は絵のちょうど真ん中にあたり、等身大のローマに身を置いているかのような錯覚を起こします。そして音楽とともに光も変化するため、風景は徐々に昼間から夕方、そして夜中へと移り変わっていきます。次第に街が静まり返り、月の光が家々を照らし、また鳥の鳴き声で新しい一日が始まります。あまりにも不思議な感覚だったので、見る場所や角度を変えながら、思わず何時間も見とれてしまいました。
展示は9月末まで。機会があったらぜひ訪れてはいかがでしょうか。
「360°Gasometer Pforzheim」:www.staatsgalerie.de
すべて遠近法で丁寧に表現しています
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
www.kakueinan.wordpress.com