以前にご紹介した三王教会と聖母教会に続き、今回はドレスデンの市庁舎(Rathaus)の塔を取り上げたいと思います。ドレスデンは昔、「百塔の都」と呼ばれたように、市内を見回すと多くの塔が見えますが、中でも一際高く、そして黒くそびえ立つのが市庁舎の塔です。高さ100.3メートルの、市内で最も高いこの塔は、レジデンツ城の塔より高い建物を建てることを禁じたお触れに反していますが、黄金に輝く天辺の5メートルの像を差し引けば、反則にはならないようです。
今から66年前も爆撃後の街を見下ろしていた像「美徳」
案内に沿って市庁舎前の広場(Rathausplatz)から中庭に入ると、いきなり塔の足元にエレベーターの入り口があります。垂直にそそり立つ塔の外側に円形の筒が飛び出しているので、かつては螺旋(らせん)階段だったのかと思いきや、このエレベーターは1910年のオープン時にはすでに存在していたそうで、現在は文化財として登録されています。45年のドレスデン爆撃の際に火災に見舞われましたが、聖母教会とは違って幸い倒壊しませんでした。砂岩という柔らかい素材ゆえに、経年変化でドレスデンの建物はどれも黒く変色しますが、それに加えてこの真っ黒な石は火災によるもの……と思うと、地上68メートルの展望台にのぼるにはかなり勇気が要ります。
チケット販売の階、およびその上の展望台の内装は残念ながら殺風景で居心地が良いとは言えませんが、案内係の方は知識豊富で、次々と来場者の質問に答え、資料や映像を見せてくれるサービスぶりでした。
一際黒く力強い塔がそびえる市庁舎
さて、展望台には16の像が立っています。それぞれに名前が付いていますが、中でも「美徳(Güte)」はこの街で最も馴染み深い像でしょう。爆撃後、廃墟と化した壊滅状態の街を見下ろすこの像の写真は有名で、ポストカードとしても土産物屋で売られています。手を下に差し向けて物憂げに見下ろす像は哀しみに満ちており、この街の「死」を象徴的に表現しています。写真の撮影者は不明ですが、火災によって恐らくエレベーターが作動しなかった塔にのぼり、撮影したとのことです。現在、当時の建物はよみがえっておらず、交通の要所およびショッピングの中心地であることを示す大きな駐車場とデパートと道路が見えるばかりです。
塔のオープンは4月から10月までの期間限定ですが、ドレスデンで最も高い場所から見下ろす景色は格別です。
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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