東ドイツ時代のプラッテンバウ(プレハブ集合住宅)が目立つドレスデンのハウプト通り(Hauptstraße)に面して、バロック様式の三王教会(Dreikönigskirche)が建っています。この通りの反対側は瀟洒(しょうしゃ)な噴水のある広場になっていて、土曜日の朝市やレストランのテラス席としても利用されています。そして、この広場に面してそびえているのが教会の塔です。ハウプト通り側の壁は白い砂岩製なのですが、塔のある反対側は真っ黒。教会の歴史がとても気になります。
この教会が史料に初めて登場するのは1421年です。1685年には街の大火に巻き込まれて瓦礫と化しますが、1688年にはミサが行われるまでに再建され、1730年に塔が完成しました。しかし、時のアウグスト強王が打ち出したノイシュタットをロイヤルタウンに改造する計画により、1732年から多くの建物が取り壊されるようになりました。それに伴い、もともと現在のアウグスト強王の黄金の騎馬像付近にあった三王教会もハウプト通りの拡張に伴って立退きを迫られ、数十メートル北の現在の位置へ移されることになりました。
噴水のある広場にそびえるシンボルのような塔
そして1739年には、ツヴィンガー宮殿を手掛けた建築家M・D・ペッペルマンによりバロック様式の教会が完成。同年9月29日に正式にオープンしましたが、その時は財政的な理由により塔は建てられませんでした。しかしその後、18メートル程度の塔が取り付けられ、1859年には87.5メートルの塔が完成しました。1945年2月13日の爆撃で屋根や鐘が焼け落ちましたが、塔だけは奇跡的に残りました。東ドイツ時代には市と教会の間で再建について議論が繰り返され、最終的に1977年に再建の許可が下ります。そして早速その年に鐘が取り付けられ、さらに1990年9月9日に現在の教会がオープンしました。
塔の入口は広場側にあります。外観は優雅な塔ですが、その石の壁の内側は暗く、3つの鐘やそれを支える鉄骨を横目に、ひたすら鋳鉄製の細い階段を上ります。その時、ちょうど12時を告げる鐘が私の真下で鳴り響きました。鐘は間近で見ると単なる巨大な鉄の塊で、それが左右へ大きく振り子のように揺れながら鳴る様には驚愕してしまいます。木造建築の揺れに慣れている日本人としては、大きな鐘が揺れる際の建物の揺れを想像して足がすくむところですが、びくともしないことにさらに驚きました。地上約80メートルからの眺めは爽快です。エルベ川の向こうには聖母教会をはじめとする多くの塔が見え、「バベルの塔以来、なぜ人間は塔を建て続けてきたのか?」と考えずにはいられませんでした。
白黒写真のような佇まいの鐘
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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