ハンブルク市のシンボルでもある聖ミカエル教会からほんの数メートル先に、まるで隠れるようにひっそりと「Kramer-Witwen-Wohnung」(商工組合寡婦住宅)があります。古い木組造りの家の隣にある小さくて暗い入口は、気を付けていないと見過ごしてしまいそうなほど。
そこを抜けると、古い石畳の小道と17世紀の木組み造りの建物が連なっていて、まるでタイムスリップしたかのように過去の世界に引き込まれます。1階は雑貨屋、骨董品屋やギャラリー、カフェやレストランなどがあります。そしてお店の上は、夫に先立たれた年老いた女性たちがかつて暮らしていた旧寡婦住宅になっています。現在は、市の記念物に指定され、ハンブルグ市歴史博物館の管理の下に一般公開されています。
ここの2階が旧商工組合寡婦住宅
昔からハンブルクは商人の街として栄え、市内には、香辛料、絹、鉄製品などを扱う小さな雑貨店が多く、繁盛していました。1375年に商工業者組合、いわゆるギルドが結成。1767年、組合は雑貨屋の主人(組合員)に先立たれた年老いた女性たちのために、この通りに彼女たち専用の集合住宅を建てました。夫が亡くなった後、店をその妻たちに任せるのではなく、早く若い商人に引き継がせるためでもあったのだとか。
ここに住む女性たちは、家賃は支払う必要がなく、年金と暖房費をもらいながら共同生活をしていました。当時の組合は、現在の老人ホームのような役割も担っていたようです。
こじんまりとしてかわいらしい居間
中を見学しましたが、まず全ての造りが小さいことに驚きました。入ったすぐのところに小さな台所があり、階段を上ると居間兼寝室があります。階段も、現代のドイツ人のおばあさんの平均的な身長では絶対無理! と思うくらい狭く、小柄な私でさえ窮屈な感じです。部屋はこじんまりとしていて質素。一方で、ロマンティックな雰囲気も感じられ、当時の決して貧しくはなかった商人のおかみさんたちの生活ぶりがうかがえるようでした。ちなみに、昔も女性の方が長生きだったのかもしれません。「やもめ」の集合住宅は建てられたことがないようです。
とても小さな台所!
さて、一階にあるお店は、ハンブルクのお土産品やお茶、デリカテッセンなどを売っています。路上にも所狭しと品物を並べていて、ちょっとした屋台のようでした。骨董品屋のラインホルト・パーベルは書籍が豊富で、特にレプリカの本は見ているだけで楽しかったです。一般的な本屋さんにはないような掘り出し物が見つかりますよ(私は、ハンブルグ名物フランツブロ-トヒェンの本を見つけました!)。
レストランでは、これまたハンブルク名物で船乗りの定食といわれる「ラプスカウス」や、「フィンケンベルダー産ヒラメのバター焼き」などの昔ながらのメニューがあります。聖ミカエル教会を訪れたら、ぜひこの路地ものぞいてみてくださいね。
ハンブルグ郊外のヴェーデル市在住。ドイツ在住38年。現地幼稚園で保育士として働いている。好きなことは、カリグラフィー、お散歩、ケーキ作り、映画鑑賞。定年に向けて、第二の人生を模索中。