今年完成したばかりの「エルプフィルハーモニー・ハンブルク」は、オープン以来、世界屈指のコンサートホールとして、世間の注目を集めています。しかし、これまでハンブルクのクラシック・コンサートの中心地として市民に愛されてきた「ライスハレ(ハンブルク音楽堂)」も、変わらず健在。現在も数々のコンサートが開催されています。
先日、ライスハレで行われたアンサンブル・レゾナンツという室内楽団のコンサートシリーズ「未知の世界へ」の第5回目の公演「無限大」に出かけました。同室内楽団は2014年から、ハンブルクのザンクト・パウリ地区にある防空壕内に本拠地を構えて活動しています。戦時中に建てられたこの防空壕は、壁があまりにも分厚いため取り壊すことが困難で、また音の遮断が可能ということもあり、現在はライブハウスや音楽スタジオとして利用されているのです。
拍手を受けるアンサンブル・レゾナンツ
本拠地のそのような背景もあり、同室内楽団は、クラシック音楽だけでなく、現代音楽やクラブミュージックなど幅広いジャンルの楽曲を手掛け、常に革新的なプログラムに取り組んでいます。
この日のオープニングはロンドン在住の藤倉大氏作曲による弦楽オーケストラ曲の「Infinite String」。この作品はニューヨーク・フィルハーモニック、NHK交響楽団、アンサンブル・レゾナンツ共同委嘱作品で、今回がヨーロッパでの初演となりました。
現代音楽は多くの場合、くつろいで聞けるような耳触りの良い音楽ではなく、作曲家が目的を持って作曲し、聴衆に集中力を要求することが多いです。作曲家である藤倉氏は「人間が存在しはじめる最初の段階、受精卵から細胞分裂によってDNAが受け継がれていく様子を弦楽アンサンブルの音色で表現しようと試みた」と語っています。
初めは糸のように細い音が少しずつ動き出し、その音同士が流れるように絡まり合いながら、波が寄せては返すように、そして呼吸をしているかのようなうねりが見事に表現されていました。作曲家の意図もさることながら、生命の息吹が感じられる演奏は、音楽家達の技術によるところも大きかったと思います。この日は藤倉氏もライスハレを訪れ、演奏の後、聴衆から大きな拍手を受けていました。
残りのプログラムはベートーベンの交響曲8番と、近現代作曲家プロコフィエフの交響曲2番という意欲的なもので、アルゼンチンの指揮者、エミリオ・ポマリコ氏の情熱的な指揮も素敵でした。最近はオペラに行くことが多かったですが、純粋な器楽曲の魅力を再発見しました。
ライスハレの外観
エルプフィルハーモニー&ライスハレ・ハンブルク: www.elbphilharmonie.de
アンサンブル・レゾナンツ(Ensemble Resonanz): www.ensembleresonanz.com
ハンブルグ日本語福音キリスト教会牧師。イエス・キリスト命。ほかに好きなものはオペラ、ダンス、少女漫画。ギャップが激しいかしら?