ジャパンダイジェスト

芸術に溢れる街を散策 秋の展覧会が開催中

ハノーファーで、ニーダーザクセン州とブレーメンにゆかりのあるアーティストを対象とした「秋の展覧会」(ハノーファー芸術協会主催)が始まりました。89回目となる今年は、59組のアーティストを選出。僕も出品者の一人として、オープニングセレモニーに参加しました。僕が訪れた週末には、同時にZinnoberというアートイベントも催されており、さらに72カ所のアトリエ等が開放され、芸術に溢れる街を堪能してきました。

作品「mu.ig.uf.er」Frank Fuhrmann 作品「mu.ig.uf.er」Frank Fuhrmann

ドイツに来るまでアートに触れる機会も少なかった僕は、現代アートに分類されるような芸術とは、ほぼ無縁でした。しかし、5年前にブラウンシュバイク芸術大学で学び始めてから、少しずつ興味が芽生え、面白いと感じることが増えました。作品が語りかけてくることを想像したり、制作者の話のなかに新しい発見をしたりして、知らない言葉を学んでいるような感覚です。今回もいろいろな場所を訪れました。

フランク・フーマンさんフランク・フーマンさん

中でも印象に残ったのは、ブレーマーハーフェンに住む芸術家のフランク・フーマンさんの作品です。テーマは「Refugium」。日本語にすると「避難場所」というニュアンスです。フランクさんの作品は、白い布生地と木材に囲まれた高さ6メートルぐらいの塔で、近づくと水の流れる音が聞こえてきます。見上げると、天井に設置された太陽電力パネルが水のモーターを動かす電気を送っています。塔の外壁は四つに分けられ、「mu」「i g」「uf 」「er 」とそれぞれ文字が書かれており、壁の中には植物がありました。布の白色は大理石のイメージから来ているそう。大理石の建物に比べると、布製の塔は簡単に建てられますが、脆弱で不安定です。布は半透明で中を覗き込むこともでき、現代の避難場所を象徴しているように感じました。

僕の作品はブラウンシュバイクの路上で暮らすロベルトという友だちを描いた映像で、森の近くにある教会で上映されています。第二次世界大戦の空襲で破壊され、修復された教会の中で、若者たちが奏でる笛とウード(アラブ音楽の弦楽器)の演奏が響いていました。聖堂の横にある小部屋で投影されたロベルトの姿を見たとき、しばらく疎遠になっていた彼にもう一度向き合ってみようという気持ちが芽生えました。

作品「DOYÇ: ... für eine bessere Verständigung.」Esra Oezen作品「DOYÇ: ... für eine bessere Verständigung.」Esra Oezen

ほかにもドイツ語発音が分からないトルコ人男性のために作られた辞書をモチーフにした作品(ErsaOezen)や、アフリカに渡ったドイツ車の持ち主を尋ねる写真シリーズ(Meyrick Kaminski)など、ドイツで暮らす移民として考えさせられる瞬間もありました。今年はコロナの影響で、外で合唱団の歌を聞く機会もあり、街を行き交う人々と一緒に芸術の楽しさを分かち合うことができました。「秋の展覧会」は10月31日までなので、興味のある方はぜひ見に行ってみてください。きっと気に入る作品に出会えると思います。ハノーファー芸術協会:

www.kunstverein-hannover.de

国本隆史(くにもと・たかし)
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net
 
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