今回は、4月に開催された「ヨーロッパ・メディア・アート・フェスティバル」(EMAF)についてレポートしたいと思います。EMAFは、ニーダーザクセン州オスナブリュックで毎年開催されている映画とメディアアートの祭典で、今年で35回目を迎えます。昨今の政治的な内容を反映したプログラムが組まれる傾向があり、学生にも多くの発表の機会が与えられているのが特徴。ここ2年はコロナ禍の影響でオンラインを中心に運営されていましたが、今年はようやく現地で開催されることに。ドイツ、オーストリア、オランダからの大学生が集い、僕もブラウンシュヴァイク美術大学の一員としてグループ展に参加しました。
Didn't ask 4 it(hitus)
僕は日本で社会科学を専攻し、ドイツでは現代美術を学んでいますが、個人的な経験を踏まえて比較すると、ドイツの方が学びを発表する機会が多いと感じます。例えば、授業では学生のプレゼンテーションや、学生同士の議論が大半を占めています。教授たちは講義をするというよりも、学生の発表を起点にコメントし、議論を深めていくという姿勢。さらにグループ展の機会も多く、作品コンセプトの立て方をはじめ、機材のセッティング、運営側との交渉など、実践的な学びの場となっています。
今回のEMAFでは、展示スペースとして各クラスに建物が一つずつ提供されたのですが、その空間演出も学生に委ねられています。僕たちのクラスは映像を投影した作品が多いので、部屋全体を暗くする必要がありました。一般的には遮光カーテンを使うことが考えられますが、今回はカーテンの替わりに大量のバターミルク(バター製造の際に分離される乳製品)を購入し、そこに顔料を混ぜてガラスに塗りました。
Waiting for Green( Frederic Klamt, Dani Rachman, Deden M.Sahid, Perkasa Darussalam, Takashi Kunimoto)
最初にアイデアを聞いた時は冗談かと思いましたが、濃い緑色の乳製品を塗ったガラスは遮光性が高く、部屋が程よい暗さになりました。カーテン費用も削減でき、展示会場側も気に入ってくれたので、そのガラスは展示期間後も残されることに。ほかにも農業用ビニールシートを使って仕切りを作ったり、天井板を外してケーブルを這わせたりと、さまざまなアイデアを出しながら空間を新しく生まれ変わらせました。
今回、僕はインドネシアの学生と作った「Waitingn for Green」という映像作品を展示しました。ほかにも目を引いた作品がいくつかあり、特に「Didn't ask4 it(hitus)」という作品が面白かったです。シャンパンやワイン、ビールの空き瓶、吸い殻が溜まった灰皿が並ぶ机。そんな閉ざされた空間で、さまざまなコスチュームに着替えた女性が映し出され、性差別や男性の抑圧的な視点と対決する作品でした。
夜になると展示スペースはパーティー会場に変わり、学生同士が交流する姿が見られました。学生との共同作業を通じて得られた気づきは、とても大きかったです。
神戸のコミュニティメディアで働いた後、2012年ドイツへ移住。現在ブラウンシュバイクで、ドキュメンタリーを中心に映像制作。作品に「ヒバクシャとボクの旅」「なぜ僕がドイツ語を学ぶのか」など。三児の父。
takashikunimoto.net