ジャパンダイジェスト

花いっぱいのベルク庭園を 植物のプロと散策

ハノーファーで一番の観光地といえば、バロック式のヘレンハウゼン王宮庭園ですが、その向かいに位置するベルク庭園も見応えがあります。植物愛好家のメッカといわれ、 ドイツで最も古い植物園の一つに数えられています。先日、自然ガイドの案内で庭園を散策し、その魅力を改めて感じました。

庭園を案内してくれたのは、ナトゥアーヴィッセン(NaTourWissen)の代表アレキサンダー・ムロドッホ博士でした。この会社名は「ネイチャー、ツアー、知識」をかけた名前となっており、植生や生物について専門的な解説をしてくれます。コロナで長らくこのような案内は取りやめとなっていましたが、最近少しずつ再開したところだとか。

ナトゥアーヴィッセンのムロドッホ博士ナトゥアーヴィッセンのムロドッホ博士

さて、この庭園は17世紀に公爵が野菜栽培を始め、その後、ハノーファー選帝侯エルンスト・アウグストの妻ゾフィーがエキゾチックな植物を集めた庭園とし、温室も造られました。現在は世界各国から集められた1万1000種類の植物が植えられ、特にランのコレクションが見ものです。

温室にはドイツでは自生していないサボテンやハスなど南国の植物が集められていて、その種類の多さに驚きました。庭には桜やツツジなど日本の植物もあり、懐かしさをそそります。4月に出かけたのですが、桜が花開き、チューリップが咲き乱れ、 まさに春真っ盛りでした。

赤と白のコントラストが美しい「パラダイス」赤と白のコントラストが美しい「パラダイス」

菩提樹の木が生えていますが、上部の枝は切られ、支柱が添えられ、何とも変な様相となっています。昔は目ぬき通りで馬車が走っていたといい、木が大きくなって朽ち始めると定期的に植え替えていました。今回も植え替えようとしたところ、2013年に木の中に珍しいカブトムシが住んでいることが発覚。切り倒してしまうとすみかがなくなるため、木を残すことになりました。倒壊して人に危害を及ぼさないように支柱が建てられ、木の幹は縄でつながれています。

また、ドイツ北部のこの地域はもともと栄養価の少ない土壌でした。そのため庭園の一角をわざとそのような土壌に戻し、野生の植物を生やしています。昔はいかに美しい花、珍しい植物を揃えるかが庭園の役目でしたが、最近は以前の植生を再現し、種の多様性を表すことも庭園の役割となっています。

カブトムシの住みかとなっている菩提樹カブトムシの住みかとなっている菩提樹

「パラダイス」と呼ばれる区画には、原野の低いやぶが広がり、そこに1本マグノリア(モクレンの一種)が咲いており、まさに楽園の風景です。空にすっくと伸びるイチョウはドイツの代表的な作家、ゲーテを讃えて植えられたといいます。たださまざまな植物が植えられているのだけでなく、歴史的な背景があり、当時の人たちの思いが込められているのです。説明を受けながら庭園を歩くと新しい発見がいくつもあり、とても充実した時間となりました。

NaTourWissen:www.natourwissen-online.de

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳・翻訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』『市民がつくった電力会社: ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』、共著に『お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)など。
 
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