ジャパンダイジェスト

マリンバでドイツを魅了する 演奏家・布谷史人さん

マリンバという楽器をご存知でしょうか。木琴の一種で、深く温かい音色から堅めの音色まで奏でることができます。ドイツの音楽界で活躍する日本人はたくさんいますが、 布谷史人 ぬのや ふみと さんはそんなマリンバをはじめ、クラシックの打楽器奏者として活躍している数少ない音楽家の一人。先日、独日協会ハノーファー茶道会の催しで初めて布谷さんのマリンバの演奏を聴き、私も魅了されました。

モースバッハのコンサートで演奏する布谷さん(ピアノはモニンガー礼子さん)モースバッハのコンサートで演奏する布谷さん(ピアノはモニンガー礼子さん)

秋田出身の布谷さんは日本の大学でマリンバを学んだ後、米国のボストン音楽院でマリンバ専攻生として修士課程、そしてアーティストディプロマ科を卒業しました。半年間ドイツのデトモルト音楽大学の打楽器科の客員教授となったのをきっかけに、2010年からドイツに定住。現在はビーレフェルトに住み、デトモルト音楽大学で週2~3日学生に指導をしているほか、週末や大学の休みに欧州各国、日本、米国などで演奏活動をしています。2002年にシュトゥットガルトで開かれた第3回世界マリンバコンクールの入賞をきっかけに活動の場を世界に広げ、これまで6枚のCDを発表。5枚目の「マリンバのための協奏曲集」は、ルフトハンザドイツ航空の機内エンターテイメントにも採用され、欧州をはじめ各国のラジオ局でも流れています。

布谷さんがデトモルト音楽大学で教え始めて12年半の際に開かれた、記念サプライズパーティーマレット4本を巧みに操り演奏。布谷さんが使っているマリンバは縦1メートル、横2.5メートルだそうです

布谷さんによると、マリンバのために作曲された作品の多くが、技術的に難しく、メロディーも難解なので聴く側の忍耐を要することもあるそうです。一方で、「和声がきれいで、分かりやすいメロディーやリズムは、奏者と聞き手がコミュニケーションを取る上で大事なものだと感じています」と布谷さん。学生に教える立場になってからは、音楽の在り方やマリンバという楽器を通して、どのようにコミュニティーに貢献できるのかを強く考えるようになったとのことです。ドイツではクラシック音楽が根付いていますが、日本では敷居が高いと感じる人もいるでしょう。しかし布谷さんは聴衆の反応から、「演奏を通じて深いところで感じられる一体感は、ドイツも日本も同じような感じがしています」と話します。日本に古くからある歌や音楽にも素晴らしいものがたくさんあるので、日本での演奏会では、日本の曲を多く演奏しているそうです。

マレット4本を巧みに操り演奏。布谷さんが使っているマリンバは縦1メートル、横2.5メートルだそうです布谷さんがデトモルト音楽大学で教え始めて12年半の際に開かれた、記念サプライズパーティー

「音楽は人々に寄り添うことのできるものであってほしい」という布谷さん。「言葉では表せないさまざまな感情や想いを、奏者は楽譜から読み取って音に乗せて表現します。聞き手がそれらの感情や想いを感じ取り、それが愛や希望、また何かの発見につながったり、心の中の琴線に触れたりしたらうれしいです」と語ってくれました。日本をスタートに米国、そしてドイツでマリンバを極めている布谷さん。今後はソロ活動と並んで、教え子との共演や他楽器との創作活動も進めていきたいと考えています。

布谷史人:www.fumitonunoya.com

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。
 
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