ジャパンダイジェスト

化学反応ゲームで社会の分断と統合を考える

ライプニッツ・ハノーファー大学で1月、慶應義塾大学で社会心理学を専門とする 杉浦淳吉教授が「化学反応ゲーム」のワークショップを実施しました。ハノーファー大学化学部のフランツ・レンツ教授との共同研究の一環で、参加者それぞれが酸素や水素などの原子のカードを持ち、それらを使って化合物を作ることで得点を競います。他者との協力が必要なことから、どうやって協力関係を促すか、そして社会の利益に結びつけるかなどさまざまな考察が生まれました。

杉浦教授 (左)とレンツ教授杉浦教授 (左)とレンツ教授

杉浦教授はゲーミングが専門で、ゲームを通して省エネルギーや気候保護に寄与する行動を研究するなど幅広い活動をしています。杉浦教授のドイツ訪問は今回で30回を数え、ハノーファーは11回目になります。コロナ禍の2020年から2021年にかけてサバティカルでハンブルクに滞在し、そのときもハノーファー大学で、化学反応をメタファーとした分断と統合を表現する試みとして、化学反応ゲームを実施しました。

今回のワークショップには9人が参加し、各人がH(水素)、C(炭素)、O(酸素) のカードを持ちました。他人と分子や化合物を作り、原子量は水素が1、炭素が12、酸素が16であることから、その原子量を点数として換算します。各カードは1回しか使えないためゲームは3回。CO2(二酸化炭素)は44点、H2O(水)は18点、C2H5OH(エタノール)なら46点などさまざまな組み合わせが可能で、3回の合計点が多い人が勝ちとなります。

カードを見せ合い、化合物をどう作るか考える学生たちカードを見せ合い、化合物をどう作るか考える学生たち

「元素になりきって⾛り回り、グループになって化合物を作った。とても楽しかった」という声や、「誰も取り残さないためには時間と労⼒がかかるかもしれないが、社会として調和するためにいかに協⼒すべきか示唆している」「異なる⼈間であっても、他⼈とつながることができる。多様性は⼤きなポイントであり、協調性も同じ。協⼒することで⼤きな成果を得られる」という感想が寄せられ、いろいろ考える時間になりました。最高点は160点でした。

レンツ教授は「二酸化炭素は地球温暖化の原因だと悪者にされているが、地球には二酸化炭素も必要」と話したほか、CO3H4など不安定な化合物も作れることを説明しました。他人とつながることで点数が上がるなら、協力関係は欠かせません。不安定な化合物も手をつなぐ意志があれば作れるし、それを保つことも可能でしょう。どのようにモチベーションを持たせ、協力活動を促すかは、省エネ行動などさまざまな分野に活かせそうです。杉浦教授は「このゲームは化学や社会心理学の学習にも応用できる。複雑な気候変動問題を理解するためのツールとしてさらに発展の余地がある」と話し、手応えを感じていました。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。
 
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