ジャパンダイジェスト

市民に愛される女性像「ナナ」 今年で50周年

ハノーファー市内のライネ川のほとりに、豊満な女性像ナナの作品が三つ立っています。フランス人女性の芸術家ニキ・ド・サンファル(1930-2002)によるもので、設置されてから今年で50年を迎え、市のシンボルとして親しまれています。

ナナはフランス語で「女」を意味し、この作品群は全ての女性の原型を体現しています。知り合いの女性が妊娠したのをきっかけに制作されたといわれており、女性の丸みが強調されていて、自立した強い女性の性が感じられる像です。赤や黄色、緑、白などはっきりした色合いで、見る方がどきりとするような迫力があります。しかし1974年の設置当初から人気があったわけではありません。挑発的であり公共の場にふさわしくないと市民から反対運動が起こり、1万5000人の反対署名が集まったほどです。

迫力満点の女性像ナナ迫力満点の女性像ナナ

3体の像はゾフィー、カロリーネ、シャルロッテと名付けられ、それぞれ個性あふれる実在の人物に由来します。ゾフィーは、ハノーファー選帝侯妃ゾフィー(1630-1714)より名付けられました。現在の英国王室の祖先に当たる人です。ハノーファーでヘレンハウゼン王宮庭園を造成し、哲学者で数学者のゴットフリート・ライプニッツを自身の政治顧問としていました。

カロリーネのモデルとなったカロリーネ・ハーシェル(1750-1848)はハノーファーに生まれ、兄と共に英国で天文学者として活躍。数々の天体や彗星、星雲を発見し、英国王立天文学会で女性初の名誉会員となりました。ちなみに兄は天王星や赤外線を発見したウィリアム・ハーシェルです。

シャルロッテは、ドイツの巨匠ゲーテが若いころに恋した女性シャルロッテ・ブッフ(1753-1828)から来ています。『若きウェルテルの悩み』のヒロインのモデルとなった人です。ゲーテとは結ばれませんでしたが、夫の仕事でハノーファーに居住し、そこで生涯を閉じました。カロリーネ・ヘルシェルとシャルロッテ・ブッフの墓はハノーファーにあります。

ヘレンハウゼン王宮庭園にあるモザイヘレンハウゼン王宮庭園にあるモザイク

上述のヘレンハウゼン王宮庭園でもニキの作品が鑑賞できます。「ラ・グロッテ」と呼ばれる洞窟はニキ・ド・サンファルの世界観を表しており、色とりどりの鏡やガラス、タイルのモザイクが不可思議な空間をつくりだしています。

3月8日は国際女性の日でした。2023年のジェンダーギャップ指数は146カ国中ドイツは6位、日本は125位。フェミニズムの先駆的存在であったニキが50年前にどんな思いを込めて、この作品を発表したのか。女性が秘めるパワーを解放したようなナナの像を見ながら、この50年の女性の地位や役割の変容について思いをはせています。

田口理穂(たぐち・りほ)
日本で新聞記者を経て1996年よりハノーファー在住。ジャーナリスト、法廷通訳士。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか(学芸出版社)』、共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿(光文社新書)』、『夫婦別姓─家族と多様性の各国事情(筑摩書房)』など。
 
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