シュトゥットガルト南西に位置するベーブリンゲン(Böblingen)には、畜産・食肉加工と調理の歴史を展示している食肉博物館があります。先日、この食肉博物館で現代アートの展示が開催されると聞いて、早速行ってみました。
常設展では、昔の肉屋の風景が再現されている
博物館は、市内中心部のマルクトプラッツにある、2棟並んだ伝統的な木組みの家が目印。東側の建物は地元の歴史資料館になっており、西側の建物が食肉博物館として、1階と2階で食肉関係の常設展を開催しています。この展示では、肉を加工するさまざまな道具や昔の肉屋の模型や看板、ポスターなどがありました。どれもアナログな手作り感があって、レトロでかわいらしい雰囲気でした。
さまざまな表現形態が入り混じったアート空間
そして3階に上ると、不思議なアート展示空間に。巨大な写真やビデオアート、グラフィックにインスタレーション。まさにドイツ語で言う「Wunderkammer(驚異の部屋)」そのものです。この展覧会は、ミュンヘン在住38歳のイギリス人アーティスト、アンナ・マッカーシー(Anna McCarthy)さんによるもので、展示タイトルは「ブラッドレス・ブティック」。展示はいくつかの小さい空間に分かれていますが、そのうちの1つに不思議な機械がありました。タイトルはなんと、「People killing pizza machine (人殺しのピザマシン)」。不吉な響きではありますが、イギリス人ならではのブラックジョークの匂いがします。
マッカーシーさんの作品「ストリートディーラーコート」
この作品の背景には、アーティストの子ども時代のエピソードがありました。マッカーシーさんが小学生の時、学校の課題で「ピザマシン」を描くというものがあったそう。当時8歳の彼女は男の子が大嫌いだったことから、ピザマシンの代わりに「少年殺しマシン」を描いたのです。そのことが問題視され、両親は学長に呼び出されたそうです。この作品の一部でもあるオーディオのスピーカーからは、マッカーシーさんとお父さんの会話の録音が流れていて、2人でこのマシンをどうすれば上手く構築できるかについて語り合っています。また、「ストリートディーラーコート」という作品では、コートの内側に安い腕時計やサングラスの代わりに、肉やソーセージが中に垂れ下がっている絵が貼られていました。これらの作品は、ただ鑑賞者を笑わせるためのものではありません。その裏には、大量消費や人種差別などに対する社会批判のメッセージがしっかりと含まれているのです。
食肉がテーマの博物館と、マッカーシーさんの肉をテーマとした作品群のコンビネーションにより独特の世界観が生まれ、それぞれを別々な場所で見るよりもずっと面白い体験ができました。展示は来年の3月まで開催されているので、ぜひ鑑賞してみてはいかがでしょうか。
Deutsches Fleischermuseum: https://fleischermuseum.boeblingen.de
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
Instagram : @einankaku