シュトゥットガルトから南東へ約10キロの町エスリンゲンは第2次世界大戦中、幸いにも大規模な爆撃を免れたため、町中には築数百年から1000年以上の歴史のある建物が数多く残っています。普段は外観あるいは一部しか見学できない貴重な文化財が一般公開されるのが、毎年9月の第2日曜日に国内のいくつかの都市で同時に開催される「Tag des offenen Denkmals」の日。今年も市内25カ所の文化財の扉が一斉に開かれ、訪問者を華麗なる欧州の歴史の旅へと誘ってくれました。しかも、ガイドツアーを含めて見学はすべて無料です。
100年前に建てられた映画館。保存状態は良好です
もちろん、1日で25カ所すべてを回りきることはできませんので、パンフレットから気になった数カ所をピックアップして訪れました。最初に行ったのは、1913年から使用されているバーデン=ヴュルテンベルク州最古の映画館セントラルシアター(Central-Theater)です。新古典主義建築の広間の天井は高く、両側の壁は装飾用の付柱によって区切られ、その間の壁の中心には人の顔のような彫刻が施されていて、周りにカラフルなアールヌーボー調の絵が描かれています。ずっと光に当たっていなかったためでしょうか、その色は築100年が経った今なお、とても鮮明です。装飾には曲線が多く使われ、優美で華麗な印象を受けました。この映画館は現在改装中で、近い将来、再オープンする予定だそうです。
次に、1525年建造の「Dicker Turm」という塔のガイドツアーに参加しました。塔の中は、2011年までレストランとして使用されていましたが、火災時の避難ルートが確保できないとの理由で、閉鎖となりました。厚さ5mの壁がとても印象的で、上にある元レストランの空間はとても明るく、窓から素晴らしい眺めを楽しめます。ガイドの説明によると、第2次世界大戦直後は、塔の上はダンスホールとして使われており、床は木の板が張られただけの簡単な作りで、隙間からは塔の下まで見えたとか。とにかく、地元の人々に大変親しまれていた場所だったようです。いつかまた人々に利用される日が来ると良いですね。
Stadtkircheの塔からの眺め
そしてこの日、何と言っても印象深かったのが、町のシンボルでもある築1300年の教会「Stadtkirche」のツインタワーに登頂したこと。塔の通路は異常に狭く歩きづらいのですが、いざ頂上に到着すると、そこに待っていたのは、ひしめき合うように並ぶかわいらしい木組みの家々と、その向こうに広がるぶどう畑! この感動的な眺めは、本当にお勧めです。絶景を見に、来年はぜひ、皆さんも文化財の一般公開日にエスリンゲンを訪れてみてください。
中国生まれの日本国籍。東北芸術工科大学卒業後、シュトゥットガルト造形美術大学でアート写真の知識を深める。その後、台北、北海道、海南島と、渡り鳥のように北と南の島々を転々としながら写真を撮り続ける。
http://kakueinan.wordpress.com