ザクセン州では、現役の蒸気機関車が身近に走っています。先日、特に有名な3路線のうち、ドレスデン近郊の林を駆け抜けるレスニッツグルンド鉄道に乗って来ました。
逆機のレスニッツグルンド鉄道
レスニッツグルンド鉄道は、ドレスデンの北に位置するラーデブルクとワインの町ラーデボイル間の約16.6kmをつないでいます。今回は中間の駅モーリッツブルクから乗ることにしました。遠くから汽笛が鳴り渡り、蒸気をあげる黒いどっしりとした機関車が見えてくると、乗車への期待が一気に高まります。一面緑色の客車に乗り込むと、まるで時間が止まったかのようなレトロな内装に驚かされました。
時間が止まったかのような車内
19世紀後半の産業革命の折、ドイツ全土で一気に広まった蒸気機関車は、当時の人々にとって移動や輸送手段として生活に欠かせないものでした。レスニッツグルンド鉄道が生まれたのもその頃です。当時ラーデブルクから王宮の建つドレスデンまで向かうために通るレスニッツグルンドは、斜面が多く馬車にはとても不便な地域でした。男性の乗客はいくらか安い運賃で馬車に乗れましたが、坂道になれば降りて車体を押さねばなりませんでした。ドレスデンまで出るのは、ほぼ一日がかりの行程だったようです。やがて区間を利用する多くの市民の要望が届き、1884年9月にレスニッツグルンド鉄道は開通しました。
一般的な鉄道のレール幅よりも狭い狭軌鉄道のため、起伏のある土地も難なく越えていけます。20世紀の前半は戦争により走行のための燃料や資材が不足し、兵隊輸送を優先するために日常の便数や車両数は減らされることになります。終戦間際には、輸送路を断つための空爆により線路や汽車の大部分が破壊されました。1945年5月には2台の機関車と数台の車両しか残っていませんでした。その後、戦後のドレスデン復興のために資材や食料を運ぶ列車の存在は欠かせず、線路の復旧もままならない状態で運行が開始されました。そのような困難な時代を経て、レスニッツグルンド鉄道は現在もなお人々の生活や観光のために毎日休みなく走っています。
ゆっくりと動き出した汽車は時速25kmの速さで林の中を進んでいきます。時には家のすぐ横を通り、誰もいない静かな林の中を抜け、遠くまで見通せる平原や池を越えると、人々の生活を感じるラーデボイルの町に入ります。たった30分の汽車の旅でしたが、ここでしか見られない特別な景色を車窓から楽しみ、まるでタイムトリップしたような穏やかなひと時でした。
レスニッツグルンド鉄道: www.loessnitzgrundbahn.de
東京都出身。ドイツ、西洋美術への関心と現在も続く職人の放浪修行(Walz ヴァルツ)に衝撃を受け、2009年に渡独。ドレスデン工科大学美術史科在籍。