11月初め、「短く裂ける音、そしてシュトリーツェルマルクトの眩い夢は終わってしまった」という見出しがドレスデンの地元各紙に踊りました。クリスマスツリーとして使われる予定だった木が、運搬作業の最中に割れてしまったのです。トラム内のモニターにも、グラフィック化されたモミの木がひっくり返っている様子が映し出され、今年のクリスマスツリーが割れた事件が早速ネタにされていました。ニュースとしてはこぼれネタですが、地元民の心理としては放って置けない深刻な話なのです。
ドレスデン市民が誇りとしているのが、「シュトリーツェルマルクト(Striezelmarkt」」が国内最古のクリスマスマーケットであるということ。そして今年は580回目という節目を迎えることもあり、早くから町中でお祝いムードが際立って強く感じられていました。クリスマスマーケットに欠かせない大きなツリーの選考は6月から始まり、9月末までには2位の木に619票の大差を付け、4000票以上を獲得した近郊の町クライシャの木が選ばれました。
11月1日(土)の8:30頃、重さ5トンにもなる木が伐採され、吊り上げられてトラックの荷台へ下ろす最中に、悲劇は起こりました。関係者の話では、寒さによるひび割れが原因だろうとのこと。作業員に負傷者が出なかったのが不幸中の幸いでしたが、彼らの落胆ぶりは相当なものだったようです。
シュトリーツェルマルクトがオープンする日はすでに決まっているため、ツリーの建て込み作業を遅らせることはできず、その場ですぐに次案が検討されました。選考過程でリストに載っていた木の中から、その週末のうちに開催場所であるドレスデンのアルトマルクトの広場まで問題なく運搬可能で、路上で作業をする際に義務付けられている認可を得る必要なしに伐採作業が可能という条件を備えた近郊の町クリッペンハウゼン(Klippenhausen)のツショヒェ一家が所有する木に白羽の矢が立ちました。斜面に生えているためにベスト3に入る木ではありませんでしたが、10位内に入っていました。
無事に到着したピンチヒッターのクリスマスツリー。十字架教会とピラミッドを従えて
無事に伐採され、翌12日(日)の午後遅くには無事にアルトマルクトの所定の位置に立てられました。この木は開催期間中、1万6200個の電球でライトアップされ、シュトリーツェルマルクトの一番のシンボルとして訪れる人々の目を楽しませ、カメラの絶好の被写体となることでしょう。今年は開始前に前述のようなエピソードがあったので、いつもとは違った目で眺めたいと思います。
580回目のシュトリーツェルマルクト開催を告げる巨大なシュヴィップボーゲン
横浜出身。2005年からドレスデン在住。ドイツ人建築家の夫と娘と4人暮らしの建築ジャーナリスト。好奇心が向くままブログ「monster studio」公開中。
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