Hanacell

軍事や暴力の中からジェンダーを問い直す展示会

いつの時代も、またどの地でも「戦いの象徴は男性、平和は女性」というイメージが存在します。力の「弱い」女性と「強い」男性という対立の構図は、戦争、軍隊、権力の中で色濃く表れ、社会の中まで浸透してきました。しかし暴力や権力の中で、性差によってのみ役割が決められてきたのでしょうか。このステレオタイプの表現に問いを投げかけた企画展示が、現在ドイツ軍事歴史博物館で行われています。歴史を紐解き、社会を注意深く観察した展示から、暴力と性差のさまざまな関係性が見えてきます。

美術作品から日用品までさまざまな媒体が並ぶ展示室
美術作品から日用品までさまざまな媒体が並ぶ展示室

「暴力と性(Gewalt und Geschlecht)」展は全部で6つの小テーマに沿った区画に分かれ、多様な視点を切り口に見ることができます。1000個を越える展示物には、絵画、写真、書類、音声の記録から武器や服、日用品まであらゆる物が集められ、考える助けとなっています。プロローグで迎えるのは、戦いや軍事を描いた歴史的な絵画を写した写真パネルです。驚くことに、何十枚とある血なまぐさい軍事の場面は、すべて女性画家が描いたもの。権力と支配のテーマを扱った区画には、ロシアの女帝エカチェリーナ2世のドレスが飾られています。かつて帝政ロシアに存在したプレオブラジェンスキー連隊の象徴色である鮮やかなオレンジ色と若草色で作られたドレスは、権力の座に就いた女王が、同時に軍の最高指揮官でもあることを表しています。その一方、戦争の中で犠牲となったり軍内で差別に遭ったりと、女性であるがゆえに被害者となった例も挙げられています。差別や性被害の記録は、写真や被害者のメッセージを通して生々しくその歴史を伝えています。

ビルギット・ディーカー「クレイジー・デイジー」(2011年)
ロケットの形を成す女性マネキン。ビルギット・ディーカー「クレイジー・デイジー」(2011年)

近年では、政治や軍事の世界で女性の存在が大きくなり、制度の変化もいたるところで見られます。とはいえ、男女の社会上の役割分担は未だに変化のないところもあります。例えば、街中で見かけるおむつ交換台のピクトグラムには、しばしば大人の女性が描かれています。展示品として改めて見ると、社会に横たわった性別の役割が無意識にすり込まれてきたようにも思え、こうした問題を改めて問い直す必要があると、展示を通して考えさせられます。

男女の性に対する評価や価値観は、国や文化、宗教でも異なり、社会の中でも変化してきました。それでも、性差は軍事や暴力の中で特に際立ちます。当たり前のように日常に溶け込んでいる性差を問い直す試みとして、本展は有意義な場となっています。

「暴力と性(Gewalt und Geschlecht)」展:
www.mhmbw.de/sonderausstellungen/gug
(2018年10月30日まで)

勝又 友子
東京都出身。ドイツ、西洋美術への関心と現在も続く職人の放浪修行(Walz ヴァルツ)に衝撃を受け、2009年に渡独。ドレスデン工科大学美術史科在籍。
 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加


Nippon Express ドイツ・デュッセルドルフのオートジャパン 車のことなら任せて安心 習い事&スクールガイド バナー

デザイン制作
ウェブ制作

ドイツ便利帳サーチ!

詳細検索:
都市
カテゴリ選択